引きこもりや不登校は、決して怠けや甘えではありません。それは、心が傷ついたとき、自分を守るために選んだ「生きるための戦略」だといっていいかと思います。
植物は、自ら動くことができません。けれど、与えられた環境の中で、光を求めて葉を広げ、根を張り、水分を吸収しながら懸命に生きています。乾いた土地では水を蓄える工夫をし、日陰では葉を大きくして光を集めます。動けないからこそ、環境に合わせて自分を変え、しなやかに生き抜いているのです。
引きこもりや不登校の状態は、与えられた環境にうまく適応できずに、傷ついた心を守るために、安心できる場所に身を置いているのです。それは、植物が厳しい環境の中で身を守りながら、少しずつ成長していく姿と重なります。
たとえば、乾燥地に生きるサボテンは、外敵や過酷な気候から身を守るためにトゲを持ち、水分を蓄える厚い皮を備えています。それは、外から見れば「閉じている」ように見えるかもしれませんが、実は内側では命を守るための高度な工夫が働いているのです。引きこもりの状態もまた、外界との接触を制限しながら、内側で心のエネルギーを蓄え、再び動き出すための準備をしている期間なのかもしれません。
大切なのは、「動かないこと=止まっていること」ではないという視点です。植物が根を張るように、引きこもっている間にも、心の中ではさまざまな思いや葛藤が育まれています。自分を見つめ直したり、好きなことを見つけたり、少しずつ外の世界に目を向ける準備をしているのかもしれません。
保護者の方にとっては、心配や焦りが募る日々かもしれません。でも、植物に無理やり水をかけすぎると根腐れしてしまうように、過度な働きかけは逆効果になることもあります。まずは、その子が「今いる場所」で生きようとしていることを認めてあげてください。そして、必要なときにそっと手を差し伸べられるよう、心の準備をしておくことが大切です。
心理カウンセリング・ウィルは、そんな「根を張る時間」を支える場です。無理に引っ張り出すのではなく、安心して話せる場所を提供し、本人のペースで芽吹く力を信じて寄り添います。植物が春を待って花を咲かせるように、人もまた、適切な環境と関わりの中で、必ず自分らしい花を咲かせる日が来ます。もし、今その芽が見えなくても、土の中では確かに命が息づいています。その命を信じて、共に見守っていきましょう。

心のコラム
№32 引きこもりと植物の生存戦略

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